湊かなえ『暁星』の感想です。後半にはネタバレを含む文章もあるので、ネタバレを見たくない人は注意してください。
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一言キャッチコピー
「親の言葉」という消えない呪縛。交錯する2つの運命が織りなす、湊かなえ流・切ない救済の物語。
あらすじ(ネタバレ無し)
主人公は、永瀬暁。 そして謎の作家。
二人には共通点がありました。
それは、母親がある「宗教」にのめり込んでいたこと。
最初は些細な違いだったのかもしれません。
しかし、その「浸かり度」の深さは、幼い彼らを洗脳し、縛り付けるにはあまりにも十分なものでした。
同じ闇を共有しながらも、全く異なる人生を歩んでいく2人。
湊かなえ作品特有の、背筋が凍るような「イヤミス」要素を含みながらも、本作はそれだけでは終わりません。
今までにない見せ方で読者の心を深く抉り、そして物語の結末を知った時、あなたは必ずもう一度最初のページを開きたくなるはずです。
心に残った「情景」と「セリフ」
この作品を読んでいて、不意に動けなくなった瞬間がありました。
それは主人公の一人が母親に言われるがままになっているシーンです。
「この物語はフィクションである」
これは物語の核心に触れる一節ですが、この言葉が持つ意味に気づいた時、文字通り鳥肌が立ちました。
しかし、私が震えた理由はそれだけではありません。
母親の言葉に縛られる星の姿に、かつての自分を重ねてしまったからです。
学生時代、私も親の言うことが絶対で、自分の意思を持てずにいました。
「あなたのため」と言われて植え付けられた言葉は、大人になった今でもふとした瞬間に蘇り、私を縛り付けることがあります。
親から言われ続けたことの恐ろしさは、物理的な暴力以上に、心に「見えない檻」を作ることなのかもしれません。
この小説はフィクションですが、そこに描かれている「支配の痛み」は、紛れもないノンフィクションとして私の胸に突き刺さりました。
魅力分析(推しポイント)
キャラクター:「暁」と「ある作家」の化学反応
主人公である「暁」、彼は「ノンフィクション」を書き、一方の「作家」は「フィクション」を書いています。
宗教という閉ざされた世界で育った二人が、それぞれの武器(書くこと)を持って対峙する構成が秀逸です。
混ざり合うはずのない二つの物語が交錯したとき、読者の想像を超える化学反応が起こります。
構成:真実は「暴露」か「創作」か
これまでの湊かなえ作品といえば、登場人物の独白や手記によって、徐々に嫌な真実が明かされるスタイルが王道でした。
しかし本作は違います。
「暁が描くノンフィクション(暴露記事)」と「ある作家が描くフィクション(小説)」という2つの形式で、ある事件の顛末が語られていくのです。
読者は常に問いかけられます。
「どっちが本当なんだ?」と。
どちらかが嘘なのか、あるいは両方とも偽りなのか。
ページをめくる手が止まらないのは、この新しい「見せ方」の巧みさゆえでしょう。
【要注意】ネタバレ・考察エリア
ここから先は物語の核心に触れています。
この物語の最大の仕掛けは、作家・星が書いた「小説」の役割にあります。
一見、星が書いた物語は作り話(フィクション)のように見えます。
しかし、実はそれこそが、事件の真実を詳細に記した「告発文」だったのです。
なぜわざわざフィクションの体裁をとったのか。
それは、「フィクションである」という前提を最後の最後でひっくり返すためです。
「この物語はフィクションである」という一文を消す。
その瞬間に、彼女の小説は「虚構」から「真実の告発」へと姿を変えます。
それはすべて、もう一人の主人公である暁を救うための、彼女なりの命がけの献身でした。
私はこの結末を読んだ時、ただのミステリーの謎解きでは得られない、熱いものがこみ上げてきて涙が止まりませんでした。
嘘をつくことでしか守れないものがある。そんな切実な愛の形を見せつけられた気がします。
この本がおすすめの人
「湊かなえ=イヤミス(後味が悪い)」と思って避けている人
親との関係や、過去のしがらみに悩んでいる人
構造的な仕掛けがあるミステリーが好きな人
「イヤミス」の女王と呼ばれる著者ですが、本作はただ不快なだけでは終わりません。
骨太なストーリーと、その先にある救済には、きっと心を揺さぶられるはずです。
もし、書店で見かけたら、ぜひ最初の1ページを開いてみてください。
そこには、あなたの予想を裏切る「光」が待っています。
本作には、櫻井孝宏さんと早見沙織さん朗読によるAudible版もありますので、そちらも要チェックです。
Audible版の魅力をまとめた記事は↓にありますので、ぜひ読んでみてください。
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