貴志祐介『黒い家』の感想です。今回はネタバレあり。
人間の執念というか腹の底に隠された黒い部分が見える作品です。
超常現象とかは全く出てこないホラータイトルですので、ガチ怖系を求めている方にぴったりな一冊です。
あらすじ
若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに……。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だ曾てない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。第4回日本ホラー小説大賞受賞作。
登場人物
- 若槻慎二…生命保険会社の京都支店で保険金の支払い査定業務を担当。ある電話をきっかけに事件に関わることになる。
- 菰田重徳…和也の父親だが血の繋がりはない。若槻とともに和也の自死を発見する。
- 菰田幸子…和也の実の母親。和也にかけていた保険金の請求について何度も要求を繰り出している。
- 菰田和也…菰田夫妻の子ども。幸子の連れ子である。
- 黒沢恵…若槻の恋人。
- 葛西…若槻の上司。ベテランで知識や経験が豊富であり、クレーム対応なども得意とする。
- 金石…犯罪心理学を専門とする大学助教授。
感想
本作、『黒い家』は、『悪の教典』『新世界より』などの貴志祐介原作のホラー小説である。
物語は、とある生命保険会社に勤務する主人公を中心に、不気味な事件が発生していくものとなっている。
一般的にホラー作品というと、怪奇現象や超常現象などを取り扱った、現実では起こりえないような作品が多い。しかし本作品では、実際に現実に起こりうる可能性を秘めているエピソードが主軸となっている。
というのも、本作品のホラー要素とは、怪奇現象や超常現象などではないのである。
人間社会に潜んでいる、陰惨たる狂気が本作では語られている。
あまり多くを語るとネタバレにもなりかねないので簡潔にまとめていくが、怪奇現象や超常現象を扱わないホラー作品ではダントツの怖さとなっているかもしれない。
設定に破綻が生じていないこともポイントである。
ホラー作品といえば、話の途中で「???」となってしまいかねないようなとんでも展開に進んでいくことも少なくない。
本作では、一つ一つの文章がポイントであり、それが後に重要な伏線となってくる。読んでいる最中は気にも留めず読んでいたが、そのような箇所が後になってハッとさせられるようなこともあった。
本作『黒い家』を読了し、改めて感じたことがある。それは、貴志祐介先生の真骨頂とも言える部分。散りばめられた伏線を、我々読者がそれに気づかないようミスリードさせることこそが貴志祐介先生の文章の為せる技であると感じた。
本作は映画化もされており、大竹しのぶさんや石橋蓮司さんなどの豪華キャストで製作されています。
この小説の恐怖感をどこまで映像化できているの確認してみたいですね。
ガチ感想(ネタバレあり)
菰田和也は幸子の子どもであるが、若槻は保険金殺害の線を疑っていた。
菰田重徳とは血の繋がりがなく、重徳は以前にもわざと自分の指を切り落とすなどして保険金を受領していた過去があった。
和也の自死現場を一緒に発見したときも、若槻の様子を伺うような素振りであったことから、重徳はクロであると若槻は確信していた。
しかしフタを開けてみると、実際に菰田和也を死に追いやったのは幸子であり、過去にも実子を保険金目当てで殺していたのだった。
この事実だけでもう怖すぎる内容です。
しかしここで終わらないのが本作のすごいところです。
若槻は菰田家のことをずっと疑ってかかり、また、警察からの詳細な情報も降りてこなかったために保険金の支払いを止めたままにしていたのです。
その対応に憤慨した菰田幸子は、若槻に対し執拗なまでの嫌がらせを行います。
自宅のポストが荒らされていたり、部屋に侵入した痕跡もありました。
果ては恋人の恵の飼い猫を惨殺したり、恵本人を拉致・監禁したりします。
その執念深さたるや恐ろしすぎます。
若槻は恵を取り返すために菰田家へ乗り込み、恵を無事発見。あと一歩のところで幸子に見つけられるといったタイミングで警察が到着し、事なきを得ました。
このように感想をまとめているだけで恐怖が蘇ってきます。
ですがまだ菰田幸子との戦いは終わりません。
このあと若槻は菰田幸子と一騎打ちすることになり、必死に逃げ回ります。
なにせ相手は刃物を振り回しており、恐ろしい四白眼の形相で追いかけてくるのですから。
最後は若槻が菰田幸子にとどめを刺し、終りを迎えます。
内容を一部抜粋して感想をまとめただけで恐ろしい文章になってしましました…
個人的には最高のホラー作品ですので、興味が湧いた方はぜひとも読んでみてください。
僕の文章からでは分からない恐怖を体験することができると思います。
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