芦沢央『許されようとは思いません』の読了後感想です。
本作は、5つの短編で構成されたミステリー作品になります。
いずれも、人の心に巣食う闇によって思ってもいなかった方向に話が転がっていってしまい、とんでもない事態に巻き込まれてしまう…という作品です。
著者の代表作『火のないところに煙は』も同じく短編作品でしたが、そちらとは違い、一つ一つの話に繋がりはありません。
それぞれの短編のみで楽しめるため、本を読む時間がない方にもぴったりだと思います。
あらすじ
「これでおまえも一人前だな」
入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績を大きく上げた修哉。
上司にも褒められ、誇らしい気持ちに。
だが売上伝票を見返して全身が強張る。
本来の注文の11倍もの誤受注をしていた――。
躍進中の子役とその祖母、凄惨な運命を作品に刻む画家、
姉の逮捕に混乱する主婦、祖母の納骨のため寒村を訪れた青年。
人の心に潜む闇を巧緻なミステリーに昇華させた5編。
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注目ポイント
独立した5つの短編
5つの短編は、それぞれ独立したミステリー作品として描かれています。
一つ一つのお話はそれほど長くないため、サクッとミステリーを読みたいという人にはぴったりだと思います。
話が短い場合の懸念点として、クオリティが心配されると思いますが、そこは心配ご無用。
なんなら長いだけの作品よりもしっかりまとまっていて面白いです。
短編がつながっていくのが好きな人には少し物足りなさはあるかもしれません。
人間の闇
それぞれの短編では、登場人物が抱える闇が描かれます。
人間の闇とはここまで恐ろしいものかと思わせてくれます。
人の目を気にしやすい方は、これを読んだ後からは自分が周りからどう思われているのかを気にしながら生きていくことになるかもしれません…
感想
5つの短編全て面白かったです。
5つ目の「許されようとは思いません」だけ少し毛色が違ったような気もしますが、いずれにせよ面白い。
以下それぞれの短編の感想です。
読書の参考にしてみてください。
目撃者はいなかった
タイトルの伏線回収がすごい。
交通事故を目撃してしまった男が、ある理由により目撃証言をすることができない話なのですが、人間の闇とは恐ろしい。
目撃証言を断ったことによって、男はある事件に巻き込まれてしまうという、自業自得とも言えるような話です。
要は、仕事のミスを隠してあれこれするのは止めようという話ですね。
ありがとう、ばあば
孫の芸能マネジメントに躍起になっている祖母が、孫から受けた仕打ちに関するお話です。
幼少期からの芸能活動ってとても大変だと思います。
遊びたい盛りに友達と遊ぶこともできず、周りの期待に応えなければならない環境は、どうしても息が詰まってしまいます。
孫娘は一体どのような気持ちで芸能活動を行っていたのでしょうか。
ばあばへの仕打ちがその全てを物語っているのかもしれません。
絵の中の男
話としてはちょっと難しいか。
ある画家にまつわる話なのですが、その画家はあらぬ噂を立てられてしまうのです。
ある時家が火災にあい、子供を亡くしてしまいます。
その後に描いた絵が絶賛されることになりますが、絵を描くために火をつけたのではないかと疑われてしまいます。
夫と揉めることも増え、次第に関係が悪化していきます。
物語の着地点としては、やはり後味の悪さがあるように思います。
ミステリーとしてはありがちな展開でもありますが、そのクオリティは高いです。
理解できればめちゃくちゃ面白い話です。
姉のように
ミスリードうますぎて読み返してしまいました。
終盤で混乱してしまい、「え?え!?」となりながら読み終えました。
個人的には本作の中で一番好きな話です。
どんでん返し好きな人は必見です。
許されようとは思いません
ある青年が、婚約者とともに祖母の納骨のために田舎を訪れるというお話。
祖母はその村で弾きものにされており、決して楽しい生活ではなかった様子。
この祖母は、ある罪を犯していました。
それは、義父殺しの罪。
当時夫も亡くなり、義父の面倒を見ることにほとほと疲れていた祖母は、ある日全てを終わらせにかかります。
しかし、祖母の本当の狙いは義父を殺すことではなかったという…
ラストは他の短編とは違う毛色ですが、これぞ覚悟を決めた人間の闇、というのが見えるため、非常に好きなお話です。